Smiths Watch用 バーガンディー シェルコードバン
ヘリ返し・カーブエンド・台座付き 時計ベルト
── 当店史上、最高難度の製作事例
シェルコードバンの時計ベルトでヘリ返し仕上げは可能か?結論から言えば、可能です。ただし、それは革職人にとって「一度は挑みたい、しかし簡単には引き受けられない」仕事です。今回、Smiths Watchを深く愛するお客様からいただいたオーダーは、バーガンディーのシェルコードバンで、テーパード+カーブエンド+ヘリ返し+ダブルステッチ+角剣+台座付きという、当店の製作史上最も難度の高い一本でした。この記事では、なぜこの組み合わせがこれほど難しいのか、そしてどのようにして完成に至ったのかをお伝えします。
お客様は、ご自身のSmiths Watchに深い愛着をお持ちの方でした。「この時計にふさわしい、世界に一本だけのストラップを作りたい」というご要望から、素材・形状・仕立て・ディテールのすべてにこだわったフルカスタムのオーダーが始まりました。
正直に申し上げると、仕様を伺ったとき私たちが心配したのは、「できるかどうか」ではなく、「お見積もりを受け入れていただけるかどうか」でした。これだけの仕様を一本に凝縮するには、相応の時間と技術が必要です。しかし職人として言えば、こうした仕事をさせていただける機会こそが、私たちが最も力を発揮できる場面です。
製品仕様
| 対応モデル | Smiths Watch |
| 表材 | バーガンディー シェルコードバン |
| 形状 | テーパード(18mm→16mm)+ カーブエンド仕上げ |
| ステッチ | ダブルステッチ |
| 仕立て | ヘリ返し |
| 剣先タイプ | 角剣 |
| オプション | 台座付き |
Smiths Watch — 英国最後の機械式軍用時計
Smiths(スミス)は、英国の時計・計器メーカーです。1953年にエドモンド・ヒラリー卿がエベレスト初登頂の際に着用していた時計がスミス製であったことでも知られています。軍用時計としては、1967年から1970年にかけて英国国防省に納入されたW10が有名で、英国製ムーブメントを搭載した最後の英国軍用機械式腕時計として、ヴィンテージウォッチ愛好家の間で高い評価を受けています。
35mmのコンパクトなケースに、視認性を重視した黒文字盤と白いアラビア数字、レイルロードミニッツトラック。質実剛健な英国の美意識が詰まったこの時計は、ラグ幅16mmという小ぶりなサイズも特徴です。この16mmという幅が、今回のオーダーの出発点となりました。
16mmの制約をどう超えるか — テーパードとカーブエンドの設計
お客様のご相談は、「16mmのストラップでは少し細く感じる」というところから始まりました。男性の手首に対して16mm幅のストラップはやや華奢な印象になることがあります。しかし、Smiths Watchのラグ幅は16mmで変更できません。
そこで私たちがご提案したのが、ストラップ本体を18mm幅で製作し、取り付け部分だけを16mmに絞るテーパード加工です。さらにカーブエンド仕上げを組み合わせることで、ケースとの接合部に隙間が生じず、18mm幅のストラップが自然にケースから伸びているような一体感を実現しました。ヴィンテージウォッチの端正なデザインを崩さず、装着時のボリュームを確保する設計です。
なぜこのストラップが「最高難度」なのか
このストラップの難しさは、一つひとつの仕様ではなく、それらがすべてシェルコードバンという素材の上で同時に求められる点にあります。
シェルコードバン ── 「革のダイヤモンド」の硬さ
シェルコードバンは馬の臀部から採れる緻密な繊維層で、6〜9ヶ月かけて植物タンニンで鞣された後、職人が手作業で研磨して独特の光沢を生み出します。世界でもごく少数のタンナーしか製造できない希少素材で、「革のダイヤモンド」と呼ばれています。その美しさの代償として、カーフ革やクロコダイルとは比較にならないほど硬く、曲げ加工や漉き加工に高い精度が要求されます。
ヘリ返し ── 職人の技量が問われる仕立て
ヘリ返しとは、革の端(ヘリ)を薄く漉いて内側に折り込み、断面を見せない仕立て方法です。コバ磨き(断面を磨く方法)と比べて上品で繊細な仕上がりになりますが、折り返し部分の漉き加工の精度、折り込み時の力加減、接着の均一さなど、すべての工程でミリ単位の精度が求められます。柔らかいカーフ革であれば多くの工房が対応できますが、硬く緻密なシェルコードバンでヘリ返しを行うとなると、引き受けられる工房はごく限られます。漉きが浅ければ折り返せず、深すぎれば革が裂ける。この素材でのヘリ返しは、革職人の技量がもっとも端的に表れる仕事のひとつです。
すべてが一本に凝縮される難しさ
テーパード(18→16mm)、カーブエンド、ヘリ返し、ダブルステッチ、角剣、台座付き。どれか一つでも十分な手間を要する仕様ですが、これらがすべて一本のストラップに同時に求められます。テーパード部分でヘリ返しのラインを美しく流す。カーブエンドの立体的な形状の上でダブルステッチを均一に打つ。ケースの下に隠れるサイズで台座を収める。一つの仕様を実現するために別の仕様の難度が上がる、そんな連鎖が生まれる製作でした。




製作過程(漉き加工・ヘリ返し・ステッチ作業など)
バーガンディー シェルコードバンの仕上がり
お客様が選ばれたバーガンディー(深い赤紫)のシェルコードバンは、Smiths Watchのミリタリーな佇まいに英国的な気品を加える色です。シェルコードバン特有の奥行きのある光沢が、ヘリ返し仕上げのクリーンなエッジラインをさらに引き立てます。
コードバンは使い込むほどに表面が磨かれ、深みのあるパティーナ(経年変化)が生まれる素材です。このストラップもまた、お客様の手首の上で、時間とともにSmiths Watchと一体になっていく一本になるはずです。





完成したストラップ(ヘリ返し・カーブエンド・角剣のディテール)


Smiths Watch に装着した状態
職人として
仕様を伺ったとき、正直に言えば「これはやりがいのある仕事だ」と思いました。心配していたのは技術的な壁ではなく、これだけの仕様を凝縮した製作に見合うお見積もりを受け入れていただけるかどうか、ということでした。
手作りの仕事には、相応の時間と集中が必要です。しかし、その空間をいただけるなら——私たちは応えます。今回のストラップは、そのことを改めて実感できた製作でした。完成品の写真をご覧いただければ、私たちがどれだけこの仕事に向き合ったか、伝わるのではないかと思います。
よくあるご質問
Q. シェルコードバンでヘリ返し仕上げの時計ベルトは製作可能ですか?
はい、当店JLC Handmadeでは、シェルコードバンのヘリ返し仕上げに対応しています。ただし、シェルコードバンは馬の臀部から採れる非常に硬く緻密な革で、通常のカーフ革やクロコダイルと比べて折り曲げ加工が格段に難しい素材です。ヘリ返しは革の端を薄く漉いて内側に折り込む技法ですが、コードバンの場合は漉き加工の精度、折り返し時の力加減、接着の工程すべてに高い技術が求められます。そのため、製作にはお時間と追加の費用をいただいておりますが、仕上がりの上品さは他の仕立てでは得られないものです。
Q. Smiths Watchのラグ幅16mmでも幅広のストラップは装着できますか?
はい、可能です。当店ではストラップ本体を18mm幅で製作し、取り付け部分のみ16mmに絞るテーパード加工で対応しています。さらにカーブエンド仕上げを組み合わせることで、ケースとの一体感を保ちながら、見た目のボリュームと装着感の快適さを両立できます。Smiths Watchのようなヴィンテージウォッチは小径ケースでラグ幅が狭い場合が多いため、このテーパード+カーブエンドの組み合わせは見た目の印象を大きく変える効果的な方法です。
Q. 台座付きの時計ベルトとは何ですか?
台座とは、ストラップの取り付け部分に設ける小さなパッドのことで、時計のケース裏面とストラップの間に挟まれる形で配置されます。台座があることで時計がわずかに持ち上がり、手首のカーブに沿いやすくなるため装着感が向上します。今回のオーダーでは、台座がケースの下からはみ出さないサイズに調整し、外から見たときに台座が目立たず、かつ装着時の快適さを確保するバランスで製作しました。ヴィンテージウォッチでは見た目の一体感を重視するオーナーが多いため、このような細かなサイズ調整が重要になります。
素材・カラー選びの参考に
シェルコードバンのほかにも、クロコダイル、カーフ、リザードなど、お客様の時計に合わせた素材をお選びいただけます。当店のColour Coordinationページでは、各種時計モデルに合わせた素材と色の組み合わせ例をご覧いただけます。
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オーダーの流れ
今回のような高難度の製作も、オーダーの流れは通常と同じです。まずはオンラインショップまたはLINEからお問い合わせください。ご希望の素材・形状・仕立て・オプションを伺い、お見積もりをご案内します。シェルコードバンのヘリ返しなど特殊な仕様の場合は、追加の製作期間と費用について事前にご説明いたします。
オーダーメイドストラップのご注文
シェルコードバンをはじめ、各種素材・形状・仕立てに対応。
ヘリ返し、カーブエンド、テーパード、台座など、高難度仕様もお受けします。
素材・仕立て・形状など、ご注文前のご質問もお気軽にどうぞ。
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